不眠症
不眠症とは
このために日常生活に支障が起き、しかもずっと続くようなら、それは不眠症かもしれません。
しかし、睡眠時間には個人差もあります。7時間以上眠っているのに「眠れない」と感じる方がいる一方で、3~4時間の短い睡眠でも、まったく問題のない方もいらっしゃいます。そのため、客観的な眠っている時間は診断の対象ではありません。本人が安眠できない、すっきり眠れないと自覚する状態が続くのであれば、それは不眠症と診断することになります。
不眠症の原因
現在、日本では成人の約2割が眠りに関わる何らかの問題を抱えているといわれます。不眠症の原因には、「環境要因」「生理的要因」「心理的要因」「生活習慣的要因」など、さまざまなものがありますが、最近になって不眠症を訴える方が多くなっている背景には、ライフスタイルの多様化、24時間社会における生活リズムの乱れ、ストレス、人口の高齢化などの問題が横たわっているようです。
根本的な原因を探ることも重要
不眠症は珍しいものではありません。誰もがなってしまう可能性があり、またうつ病など別の精神疾患の症状のひとつとして不眠症が出てくる場合もあります。睡眠薬のみに頼らず、根本的な原因を探ることが大切です。
不眠症の種類
不眠症は、眠れない時間帯を基準として、入眠障害・中途覚醒・熟眠障害・早朝覚醒の4つに分けられます。
入眠障害
寝つきが悪く、30分~1時間以上経っても眠れないタイプの障害です。原因は主に心配事やストレスなど。ただし、一度寝ついてしまえば朝まで眠れることが多く、不眠症のなかでも入眠障害はよく見受けられます。
中途覚醒
最初はすぐに眠れるものの、寝ている途中にトイレなどで起きると、その後眠れなくなってしまいます。熟睡感が得られません。
熟眠障害
睡眠時間は長くても眠りが浅く、目覚めたときに熟睡した感じがありません。高齢者や神経質な人に多く見られます。
早朝覚醒
寝つきは良いのですが、早朝目が覚めるとそのまま眠れなくなってしまうタイプです。うつ病の患者さんや高齢者に多く見られます。
不眠症の原因
現代は、あらゆる環境(家庭や学校、職場など)にストレスが溢れており、そうしたストレスが要因となって不眠を訴える方が多くなっています。主な要因は、下記の通りです。
環境的要因 | 季節の変わり目、引っ越しなど。 |
---|---|
身体的要因 | 更年期などによるホルモンバランスの変化、身体疾患などを原因とした頻尿、皮膚病(アトピー性皮膚炎等)による痒みなど。 |
心理的要因 | 不安、イライラ、人間関係の悩みなど。 |
生活習慣的要因 | アルコールや喫煙によるニコチン摂取、コーヒーの飲み過ぎなどによるカフェイン摂取過多、入眠前の過剰なネットの利用や携帯・スマートフォンの操作など。 |
不眠症の治療
原因によって治療法はいろいろですが、生活習慣の改善と「睡眠薬」などによる薬物療法が中心になります。不眠の原因である心の病気、身体的疾患、不適切な睡眠環境などの改善に取り組むことが大切です。たとえば必要なのが生活習慣の改善による不眠治療です。室温、部屋の明るさなどを調節することにより睡眠が得られやすい環境にする、音楽や読書などでリラックスできる時間をつくる、睡眠時間の4時間くらい前に食事を済ませ、入浴は1~2時間前にする、毎朝、朝日を浴びて正確な体内時間を設定する、などです。
薬物療法
不眠のタイプによって、睡眠導入剤のタイプもそれぞれ変わってきます。寝つきが悪い、途中で起きてしまう、早く目が覚めてしまう、などの症状に応じて、それぞれに相応しい睡眠薬が処方されます。
また、「抗うつ薬」「抗不安薬」「抗精神病薬」なども使用されることがあります。医師に指示された用法・用量を守って、正しく使用しましょう。睡眠薬はお酒と一緒に飲んではいけません。睡眠薬の効果が強まり過ぎて、呼吸抑制などの危険が生じるからです。
また、睡眠薬を服用したら、30分以内には寝床につくようにしましょう。なお、それまで服用していた睡眠薬をいっぺんに中止すると、リバウンドで不眠が悪化することがあります(反跳性不眠)。医師の指示に従いながら、段階を踏んでやめるようにしましょう。
適応障害
適応障害とは
適応障害は、新しい土地への移動や職場の配置転換、転校など、明確なストレス因子が引き金となって現れる症状です。気分が落ち込んだり興味関心の低下、不安や焦燥感といった症状が出てくる疾患です。
発症は通常、このようなストレスが生じてから1カ月以内といわれます。ストレスとなる原因が明確であるため、その原因から離れることができれば次第に改善されます。しかし、ストレスの原因から離れられない、また取り除けないような状況では、症状が慢性化することもあります。
適応障害の症状
適応障害の症状はいろいろです。抑うつや不安症状、集中力の低下やイライラ感が現れます。そのために普段とは違う行動をとってしまい、誤解を受けるようなことも多々あります。周囲の人の理解と症状の早期発見が大切です。
情緒的な症状
抑うつ気分、不安、集中力の低下、イライラ感、あせり、怒り、緊張 など
身体的な症状
不眠、食欲不振、全身倦怠感、疲れやすい、頭痛、肩こり、腹痛、めまい など
問題行動
遅刻、欠勤、早退、暴飲暴食、ギャンブル中毒 など
適応障害の治療
まずは原因となっているストレスを軽くすることが先決です(ストレス因子の除去)。環境を調整し、適応しやすい環境を整えることです。そうはいっても、環境調整が難しいケースも少なくありません。そうしたケースにおいて必要になってくるのが、問題解決療法やカウンセリングです。
問題解決療法は、現在抱えている問題と症状自体に焦点を当てて一緒に解決策を見出していく方法です。情緒面や行動面における症状については、薬物療法が行われることもあります。不安や不眠などに対しては「抗不安薬」、うつ症状に対しては「抗うつ薬」などが用いられます。ただし、適応障害の薬物療法は「症状に対して薬を使う」という対症療法になり、根本的な治療には結び付きません。適応障害の治療にあたっては、環境調整やカウンセリングがより重要性を帯びてきます。
パニック障害
パニック障害とは
パニック発作を繰り返し体験することで、発作のない時にも「いつまた発作が起こるだろうか」と再発への恐れ(予期不安)が続く不安障害の一種です。パニック発作とは、動悸や息苦しさ、手の震え、強い不安などです。
パニック障害の患者さんは、発作の恐れなどから人混みを避けたり、外出できなくなったりと、生活の幅が狭まって仕事や社会生活の質を損ねてしまいます。
パニック発作では、突然起こる激しい動悸や発汗、頻脈(心拍数が増加している状態)、震え、息苦しさ、胸部・腹部の不快感、めまいといった身体的な症状に加えて、「死んでしまうのではないか」と思うほどの強い不安感に襲われます。同時に足がフワフワして力が入らず立っていられないような感じになることもあります。しかし、多くは20~30分くらい、長くても1時間以内に発作は治まります。
パニック発作で病院に運び込まれるケースもありますが、医師の診察を受ける頃には正常に戻り、心電図検査や血液検査などにも異常は見られません。検査では異常が見当らないのに、こうした発作をくり返すのがパニック障害の特徴です。
パニック障害の3大症状
「また発作を起こしたらどうしよう」という、パニック発作に対する強い恐怖感や不安感が生じがちです。こうした予期不安は、「逃げ場のないような場所で症状が起きたらどうしよう」「発作を他人や大勢の人に見られたら恥ずかしい」といった不安や恐怖を生み、大勢の人が集まる場所などを避けるようになります。
これが、「広場恐怖(外出恐怖)」です。「パニック発作」と「予期不安」、「広場恐怖」はパニック障害の3大症状といわれる特徴的な症状で、この3つの症状は、悪循環となってパニック障害を悪化させがちです。パニック障害が悪化すると、人前に出るのを嫌って閉じこもるようになり、正常な社会生活が営めなくなります。うつ病を併発するケースもあります。
パニック障害の治療
パニック障害の治療では、「抗うつ薬」「抗不安薬」による薬物療法とともに、精神療法によって発作に対する恐怖感を低減していく方法を用います。
社交不安障害とは
人前でスピーチをしたり、初対面の人と接するような社交場面など、周囲の人の注目を浴びるような場面で非常に強い緊張を感じたり、発汗や震え、息苦しさなどの症状が現れるために人前に出ることを避けるなど、不安や緊張のために大きな苦痛を感じてしまう場合は、社交不安障害(社会不安障害)が疑われます。
従来は「自分の性格の問題だ」と考えて受診に至ることなく、長く症状に苦しむ人が少なくありませんでした。しかし近年では、薬物療法や精神療法による治療の有効性が認めらており、適切な治療によって症状を和らげることが期待できます。
社交不安障害の症状
- 人前で異常に緊張する
- 手足、全身、声の震えが出る
- 顔が赤くほてる
- 脈が速くなり、息苦しくなる
- 通常より多めの汗をかく
- 何度となく吐き気がする
- 口がカラカラに渇く
- トイレが近くなる、または尿が出なくなる
- めまいがする など
社交不安障害の原因
社交不安障害の原因は、まだはっきりとはわかっていませんが、恐怖症状を抑える働きのある神経伝達物質である「セロトニン」が不足してしまうことが発症の原因ではないかと考えられています。
セロトニンが不足する要因としては、過去に人前で恥ずかしい経験をしたことがあるなどの「経験的要因」、他人の目を気にし過ぎ、人見知りなどの「性格的要因」、「遺伝的要因」などが挙げられています。また、セロトニンと同様にドーパミンという神経伝達物質が不足することも不安を誘発すると推測されており、神経伝達機能が正常に作用すれば、不安症状は生じにくくなると考えられています。
社交不安障害の治療
社交不安障害は、脳内の神経伝達物質の不足によって起きると考えられています。そのため、脳の機能を調整する薬物療法と、カウンセリングによって治療を行っていきます。
薬物療法
「抗不安薬」や「抗うつ薬」を用いて治療します。薬の効果は飲み始めて1カ月ほどで現れてきますが、この時点で服用を止めてしまうと、再発の危険性があります。症状が出なくなっても自己判断で中断したりせず、必ず医師の指示に従ってください。
精神療法(認知行動療法)
認知行動療法では、しっかりと現実に向き合えるよう、不安を抱きやすい考え方を変えたり、不安にうまく対処したり、不安に慣れたりする訓練を行います。認知行動療法による治療は、数カ月に及ぶ長い期間を要するケースがありますが、焦らずにゆっくりと治療していきましょう。
自律神経失調症
自律神経失調症とは
自律神経失調症は、文字どおり自律神経が失調した(バランスが崩れた)状態です。自律神経は、交感神経と副交感神経という2つの神経から成り立っており、呼吸、体温、血管や内臓などの動きをコントロールしています。ごく簡単にいえば、交感神経は日中にほどよく緊張して活動するための神経(車のアクセル)、副交感神経は夜にリラックスして眠るための神経(車のブレーキ)といえます。
通常は交感神経と副交感神経が、綱引きをするようにバランスをとりながらうまく働いていますが、ストレスや疲労、ホルモンバランスの乱れ、不規則な生活習慣などによりバランスが崩れてしまうことがあります。この状態が自律神経失調症なのです。
多くの患者さんは、交感神経が優位な状態に偏りすぎたところで体が自動的にバランスを取るようになってしまっています。発症する原因として、遺伝が少なからず影響を及ぼすともいわれています。
自律神経失調症の主な症状
- 頭がさえて眠れない
- 微熱が続く
- 片頭痛
- ひどい肩こり
- 手足のしびれ
- 息苦しさ、動悸
- 食欲低下
- 冷えやほてり
- イライラ、不安
- めまい、立ちくらみ、耳鳴り、頭痛
- 腹痛、下痢、便秘
- 血圧や脈の異常
- 疲労感、倦怠感 など
自律神経失調症の治療
治療としては、「抗不安薬」や「抗うつ薬」などによる薬物療法やカウンセリングが行われます。また、夜はよく寝て日中はしっかり活動するなど、規則正しい生活をする、栄養バランスのとれた食事を摂る、適度な運動をする、環境を調整するなどの生活改善も大切です。
過敏性腸症候群
病変がないのに腹痛や腹部不快感に悩まされる
腸には明らかな病変がないのに、下痢や便秘などを伴う腹痛や腹部不快感がくり返される疾患です。過敏性腸症候群の症状には大きく分けて、以下の4つの種類があります。
便秘型 | 腹部の痛みや張りを伴う便秘が特徴的 |
---|---|
下痢型 | 腹痛を伴う下痢が特徴的 |
混合型 | 便秘と下痢の症状を併せもつ |
分類不能型 | 上記のいずれにもあてはまらない |
日本を含む先進国に多い病気で、日本人では10~15%に認められる頻度の高い病気です。症状が重い場合には、電車や車の中で急にトイレに駆け込みたくなるため、学校や会社に行けなくなったり、外出を控えるようになったりと、生活の質(QOL)を低下させてしまうケースも、しばしば見受けられます。
主な原因はストレス
原因は、不安・緊張などのストレス、疲労、暴飲暴食、アルコールの過剰摂取、不規則な生活習慣などです。そもそも胃腸はストレスに敏感に反応する臓器であるだけに、ストレスの影響は特に大きいと考えられます。
過敏性腸症候群の治療
薬物療法によって消化器症状を抑えたり、ストレスや不安を取り除いたりする治療が行われます。また、患者さん自身が規則正しい生活リズムを取り戻すことも大切です。夜はしっかりと睡眠をとり、栄養バランスのとれた食事と適度な運動を心がけましょう。
PMS(月経前症候群)
生理前のつらい症状
月経前になると「イライラする」「気分が沈んでしまう」「体の具合が悪くなる」――こうした生理前のつらい症状は、PMS(Premenstrual Syndrome:月経前症候群)と呼ばれます。PMSの症状は生理の数日~2週間前頃から始まり、月経が始まると、ほとんどが嘘のように消えていきます。
女性の約8割が経験
PMSは、女性の約8割が経験するといわれます。しかし、日本における認知度は低く、症状を自覚していながら、それがこの疾患のせいだとは気付かずに、ひとりで悩んでいる女性が少なくありません。また、周囲の人も、そのような女性を前にして戸惑うこともあるでしょう。
原因としては、生理に伴うホルモンバランスの変化によるものと考えられていますが、はっきりとは特定されていません。性格的には、真面目で神経質な人がなりやすいといわれます。
PMSの主な身体的症状
頭痛、首や肩のこり、立ちくらみやめまい、乳房の痛み・張り、肌荒れ、お腹の張り、下腹部の痛み、下肢のむくみ など
PMSの主な精神的症状
イライラ、憂うつ、眠れない、怒りっぽくなる、抑うつ、集中力や判断力が低下する、思考がネガティブになる、モノを壊してしまう など
PMSの治療法
心療内科・精神科専門医としての立場から、「抗うつ薬」「抗不安薬」などの薬物を用いた治療、心理療法(カウンセリング)や生活指導など薬物に寄らない治療など、お一人おひとりの状態に合わせた方法をご提案いたします。
身体表現性障害
身体表現性障害とは
痛み、吐き気、しびれといった身体症状があり、日常生活を妨げられているにもかかわらず、説明できるような体の疾患や薬物による影響、精神疾患などでなく、心理的・社会的な要因による障害のことです。
悲観的で繊細な方がなりやすいといわれます。若い世代に発症が多く、男性より女性に多いとみられています。
また、心身の過労や環境変化がストレスの要因だと認識できず、言葉で説明できない方に症状が出ることがあるといわれています。
身体表現性障害の症状
現在の診断基準(アメリカ精神医学会が定めた診断の指針)では、下記の5つを身体表現性障害としています。
身体化障害
30歳以前に起こった痛みや胃腸症状などの身体症状が長年続き、診察や検査を行っていますが、身体的疾患や薬物の影響ということでは十分な説明ができない。
転換性障害
歩いたり立ったり、会話するなどの随意運動機能や、見たり聞いたり、などの感覚機能について症状や欠陥がみられる。
疼痛性障害
これという身体的異常がないにもかかわらず、強い痛みが続く。
心気症
重病ではないかという誤った思い込みで、恐怖にかられる。
身体醜形障害
外見に欠陥があると思い込み、気になって仕方がない。
身体表現性障害の治療
現在、有効な治療法は確立していませんが、恐怖や不安、抑うつ症状があらわれ、「抗不安薬」や「抗うつ薬」が有効な場合があります。それ以外では、症状が悪化する要因、逆に良くなる要因を明らかにし、症状が軽くなるような考え方と行動を促していく認知行動療法などが行われます。患者さん自身は、身体の問題ではないと納得することが大切です。
強迫性障害
強迫性障害とは
強迫性障害の主な症状は、「強迫観念」と「強迫行為」です。強迫観念は、不安な想像や、起こり得ない心配事が心にわき起こり、それを心から捨て去ることができない状態で、強い不安と不快感をもたらします。強迫行為は、これらの不安と不快感を取り除こうと、くり返し行われる行動のことを指します。
たとえば「鍵や窓を閉め忘れたかも知れない」という思いの元、「戸締り確忍のために家に戻る」という行為を幾度も繰り返してしまうのです。その行為を行うと一時的な不安の軽減になっても、似たような状況で再び強迫観念が生じてしまい、次第に患者さんの生活を制限してしまい支障をきたすようになります。
強迫性障害の症状(例)
強迫性障害に気付いたら
上記のような症状は、うつ病、統合失調症など、強迫性症状以外の精神疾患でも見られますので、それらとの鑑別も大切です。専門的な診断や検査が必要になりますので、心の病気を専門に扱う医療機関を受診してください。
なお、家族をはじめ身近な人は「なぜ、そんなつまらないことを気にするのか」と理解に苦しむかも知れませんが、どうしようもなく気になること自体が病気なので、そんな患者さんの気持ちをわかってあげてほしいものです。
強迫性障害の治療
治療法は、「抗うつ薬」を服用する薬物療法で症状を軽減させていき、精神療法では症状が現れる行動パターンを見つめ直し、再発を予防していきます。
薬物療法
薬物療法としては、「抗うつ薬」のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が用いられ、症状が重いケースでは、少量の抗精神病薬が使われることもあります。
精神療法
強迫性障害には「曝露反応妨害法」と呼ばれる、一種の精神療法が有効です。その方法は患者さんに、あえて強迫症状が出やすい場面に直面させます。その際に普段行ってしまう強迫行為を行わないようにと指示し、不安が自然に無くなるまで、そのまま留まらせる方法です。強迫性障害においては、薬物と同等か、それ以上の効果があるといわれます。
統合失調症
統合失調症とは
人間の脳の働きというのは、脳全体に張り巡らされた神経のネットワークが司っています。目・鼻・耳などから入った情報の処理、思考、感情などは、すべてこの神経ネットワークの働きによって生まれています。そうした働きをうまくまとめることができなくなっている状態、つまり「統合」が「失調」している状態が、統合失調症の本体です。
統合失調症では、さまざまな症状が発症しますが、中でも多くの患者さんにみられるのが、幻覚、妄想、幻聴、興奮などの激しい症状。逆に意欲の低下や感情の起伏の喪失、ひきこもりなど、さまざまな精神症状を呈します。若い人に多く、患者さんの約8割は、15~30歳の間に発症するといわれます。
統合失調症の症状
代表的な症状には「陽性症状」と「陰性症状」、および「認知機能障害」があります。
陽性症状
実在しない姿が見えたり、声が聞こえたり、またはあり得ないことを信じ込んでしまう症状のこと。つまり、幻聴や妄想です。
陰性症状
陽性症状とは反対に、陰性症状は、本来あるはずの機能が低下している状態です。喜怒哀楽の感情が極端に乏しくなり、それに伴い表情の変化も少なくなります。また、意欲が減退し、何事に対しても関心が薄くなり、他者の視線も気にならないため身だしなみにも無頓着になります。他者とのコミュニケーションは勿論、家族や友人、身近な人との接触も避け、部屋に引きこもるようになってしまう人もいます。
認知機能障害
認知機能とは、物事を記憶したり、注意を集中させたり、計画を立てたり、また判断したりする能力のことです。統合失調症の患者さんの場合、この認知機能が低下します。
こんな症状はありませんか
- 誰かが自分の悪口を言っている
- 奇妙なものが見える
- 体に妙な感覚がある
- 誰かに見張られていると思う
- 自分の行動や考えが、他人に支配されているように思える
- 喜怒哀楽が乏しくなる
- 意欲や気力、集中力が低下して興味や関心を示さなくなる
- 言葉の数が極端に少なくなる
- 他者とのかかわり合いを避ける
- 注意力がひどく散漫になる
- 作業能率が著しく低下する
統合失調症の治療
統合失調症の治療の柱は、薬物療法と精神科リハビリテーションです。
薬物療法
薬物療法の中心になるのが抗精神病薬(統合失調症などの精神病の治療薬)で、陽性症状にかなりの効果がみられます。
そのほかにも症状に応じて、睡眠薬や抗不安薬、気分安定薬などを使うことがあります。
精神科リハビリテーション
陰性症状や認知機能障害を大幅に改善する薬がまだ開発されていないこともあり、薬物療法と精神科リハビリテーションは、統合失調症における治療の二本柱になっています。
精神科リハビリテーションには、病気の知識やストレス対処法を学ぶ心理教育、人間関係をうまく進める方法などを練習するSST(社会生活技能訓練)、記憶力や集中力などをつけるための認知機能リハビリテーションなど、さまざまな方法が知られています。
摂食障害
摂食障害とは
摂食障害は、食に関する難治性の病気で、一般的に知られている呼び方として、「拒食症(神経性無食欲症)」と「過食症(神経性大食症)」に大別されます。主に発症するケースとして過度なダイエットやストレス、失恋などがきっかけとしてあげられています。そのまま拒食症となってしまい、どんどん痩せていき、食事を摂ることができなくなりと重症化していきます。このようにますます痩せが進んでしまうケースと、拒食状態にあったのが、突然大量の食事を摂るようになり、反動で過食症に移行してしまうというケースもあります。
すべての精神的疾患にいえることですが、摂食障害は特に早期発見・早期治療が重要です。身近な人の無理なダイエットや過食、体重の激減などが気になる、悩んでいるというのなら、まずは一度専門医を受診なさるよう、おすすめいたします。
自分に厳しい人が多い
拒食症では食べることに抵抗感を持ち、食事量が極端に減ります。その状態を我慢できずに、反動から大量に食べてしまうのが過食症なのです。摂食障害は甘えから起こるものではなく、逆に、自分に厳しく自分を責めやすい人に多いといわれています。
摂食障害の治療
摂食障害に効果的な治療法は確立されていませんので、心理療法や行動療法を中心とした治療を行うとともに、時期に応じて、痩せや過食・嘔吐に対する身体へのダメージに応じた治療を行うことも重要になります。
精神的に不安定な状態が続いたり、うつ状態に陥ったりしている場合は、そうした症状を抑えるために、「抗うつ薬」や「抗不安薬」などの向精神薬を用いる場合があります。
もの忘れ
もの忘れが気になったら
年をとると、誰しも、「もの忘れ」が増えてきます。今まで普通にやれていたことが急にできなくなった、通い慣れているはずの道がわからなくなった、大切な約束を忘れてしまった、同じことを何度も聞いたりするようになった――。
こうしたいわゆる「もの忘れ」には、単なる加齢による場合(良性健忘)と、軽度認知障害、および認知症の初期段階の場合とがあります。そして、いずれかを見極める診断が非常に大切になってきますので、「もの忘れ」が増えて気になったなら、一度専門医を受診なさるよう、おすすめいたします。
良性健忘
加齢にともなう年齢相応の「もの忘れ」で、心配はいりません。
軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)
認知機能(記憶、決定、理由付け、実行など)のうちひとつの機能に問題が生じてはいるものの、日常生活には支障がない状態のことで、健常者と認知症の人の中間段階(グレーゾーン)に位置します。MCIを放置しておくと、認知機能が低下していき、5年間で約50%の人が認知症へと進行するといわれます。しかし、軽度認知障害の段階で適切な治療を行うと、本格的な認知症の発症を防いだり遅らせたりできる場合があるので、MCIと診断されたら早めに治療を受けるようにしましょう。
認知症
認知症とは、老化に伴う病気のひとつで、さまざまな原因で脳細胞が死んだり、働きが悪くなったりすることによって、記憶・判断力の障害などが起こり、社会生活や対人関係に支障が出てくる状態(およそ6カ月以上継続)をいいます。
わが国では、高齢化の進展とともに、認知症の患者数も急増しています。65歳以上の高齢者では、7人に1人くらいが何らかの認知症を患うと見られています。症状が軽いうちに認知症であることに気付き、適切な治療を行えば、認知症の進行を遅らせたり、タイプによっては症状を改善したりすることも可能です。
こんな症状の方はご相談ください
- ものの名前が思い出せなくなった
- 約束を忘れてしまう
- しまい忘れや置き忘れが多くなった
- 何をする意欲もなくなってきた
- 物事を判断したり理解したりする力が衰えてきた
- 財布やクレジットカードなど、大切なものをよく失くすようになった など
ご家族のこんな症状にお気付きの方はご相談ください
- 時間や場所の感覚が不確かになってきた
- 何度も同じことを言ったり、聞いたりする
- 慣れている場所なのに、道に迷った
- 薬の管理ができなくなった
- 以前好きだったことや、趣味に対する興味が薄れた
- 鍋を焦がしたり、水道を閉め忘れたりが目立つようになった
- 料理のレパートリーが極端に減り、同じ料理ばかりつくるようになった
- 人柄が変わったように感じられる
- 財布を盗まれたと言って騒ぐことがある
- 映画やドラマの内容を理解できなくなった
- 自分の年齢を答えられなくなった など
認知症の種類
認知症はひとつの病気ではなく、いくつもの種類があります。主なものには、下記の4つが挙げられます。このうち60~70%はアルツハイマー型認知症で、約20%は脳血管型認知症といわれており、認知症の約9割をこの二大疾患が占めています。
アルツハイマー型認知症
アミロイドβ(ベータ)などの特殊なたんぱく質が脳に溜まり、神経細胞が壊れて減ってしまうために、神経が情報をうまく伝えられなくなり、機能異常を起こすと考えられています。
また、神経細胞が死んでしまうことによって、脳という臓器そのものも萎縮していき、脳の指令を受けている身体機能も徐々に失われていきます。アルツハイマー型は、認知症のなかでも一番多いタイプとされています。男性よりも女性に多く見受けられます。
脳血管型認知症
脳梗塞や脳出血、くも膜下出血など、脳血管性の疾患によって、脳の血管が詰まったり出血したりして脳細胞に酸素が届かなくなり、神経細胞が死んでしまうことによって、認知症を発症します。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症では、レビー小体(神経細胞にできる特殊なたんぱく質)が脳の大脳皮質(人がものを考える場所)や、脳幹(生命活動を司る場所)にたくさん集まってしまいます。レビー小体がたくさん集まっている場所では、情報をうまく伝えられなくなるため、認知症が起こります。
前頭側頭型認知症
頭の前部にある前頭葉と、横部にある側頭葉が萎縮することによって起こるタイプの認知症です。若い人にも発症が見られます。
認知症の治療
認知症を完全に治す治療法は、まだ存在しません。そのためでしょうか、認知症はどうせ治らない病気なのだから医療機関にかかっても意味がないと言う方がいらっしゃいますが、これは誤った考えです。認知症についても早期発見、早期介入・治療はとても重要です。認知症の治療法には、薬物療法と非薬物療法があります。
薬物療法
アルツハイマー型認知症の薬物療法には、認知機能を増強して、中核症状(記憶障害や見当識障害(自分が置かれている状況がわからなくなる)など、脳の神経細胞が壊れることによって直接起こってくる症状)を少しでも改善し、病気の進行を遅らせる治療と、周辺症状(行動・心理症状:不安、焦り、怒り、興奮、妄想など)を抑える治療があります。
薬の効果と副作用を定期的にチェックしながら、個々の患者さんの症状に合わせて使用していきます。脳血管型認知症では、脳血管障害の再発によって悪化していくことが多いため、再発予防が重要となります。脳血管障害の危険因子である高血圧、糖尿病、心疾患などをきちんとコントロールするとともに、多くは脳梗塞の再発を予防する薬剤が使われます。
また、意欲・自発性の低下、興奮といった症状に対して脳循環・代謝改善薬が有効なケースもあります。抑うつ症状に対して、抗うつ剤が使われたりもします。
非薬物療法
薬物を使わずに脳を活性化し、残っている認知機能や生活能力を高める治療法です。認知症と診断されても、本人にできることは、たくさん残っています。まずは家庭内で本人の役割や出番をつくり(洗濯物をたたむ、食器を片づけるなど)、前向きに日常生活を送ってもらうことが大切です。
また、昔の出来事を思い出してもらう(回想法)、無理のかからない範囲で書き物の音読や書き取り、計算ドリルをする(認知リハビリテーション)、音楽を鑑賞したり、演奏したりする(音楽療法)、花や野菜を育てる(園芸療法)、自分は誰で、ここはどこかなど、自分と自分のいる環境を正しく理解する練習を重ねる(リアリティ・オリエンテーション)、などの方法が効果的です。
ほかにも、ウォーキングなどの有酸素運動を行う(運動療法)、動物と触れ合う(ペット療法)などの方法が知られています。
社交不安障害